示談後に後遺症が出たら損害賠償は請求できる?

示談後に後遺症が出たら損害賠償は請求できる?

交通事故の被害にあった場合、示談によって加害者側から損害賠償の支払いを受けます。交通事故のケガがほとんどないような場合には、早々に示談をすることがあるのですが、後に後遺症が出たような場合、損害賠償を請求することができるのでしょうか。

本記事では、示談後に後遺症が出た場合に、損害賠償が請求できるのかについて解説します。

交通事故における示談とはどのようなものか

まず、交通事故における示談とはどのようなものかを確認しましょう。

被害者は加害者に対して損害賠償請求ができる

交通事故の被害者は加害者に対して民法第709条の不法行為損害賠償請求を根拠に損害賠償請求ができます(民法第709条)。

交通事故の加害者は、被害者の生命・身体・財産に損害を与えています。そのため、民法第709条が規定する不法行為であり、被害者に対して損害賠償をしなければなりません。交通事故の被害者に支払われる損害賠償の法的な根拠はこの民法第709条に基づきます。

示談は民法上は和解契約

示談とは、当事者間で争いのある事項について、裁判をしないで解決することをいいます。民法第709条やその他の法令によっても、損害賠償としていくら支払うという具体的な支払い額は規定されていません。損害賠償という文言からも、支払うのは被害者が受けた損害に対してであり、その損害がいくらなのかは当事者で話し合うか、話し合いで合意できない場合には裁判などの法的手段で解決することになります。

示談は裁判せずに話し合いで解決することをいう一般的な用語であり、法律では当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約する民法第695条の和解契約が基本となっています。

示談後に後遺症が出たら損害賠償の請求はできるのか

以上を前提に示談後に後遺症が出た場合に損害賠償の請求はできるのでしょうか。

交通事故の和解契約後に紛争を蒸し返す行為は原則できない

まず、交通事故の和解契約では紛争を蒸し返す行為は原則できなくなります。

和解契約をすると民法第696条を根拠に、争いの目的となっている権利について、後に蒸し返すことができない確定効という効力が発生します。そのため、たとえばやっぱり金額が気に入らない、などの理由で和解契約がなかったことにする、などはできません。

実際に和解契約をする場合には、このような紛争の蒸し返しがされないように、ほかに権利があったとしても放棄する・当事者の間にその他に債権債務関係が存在しない旨を確認するなどの規定が置かれます(権利放棄条項・清算条項などと呼ばれます)。

例外的に後から発生した後遺症についての請求を認める判例がある

もっとも、後遺症については後からわかるのであり、このような結論に必ず拘束され、まったく請求できなくなるとするのは酷です。

このように、示談の後に発生した後遺症について、権利放棄条項が有効かどうかについて争われた江洲運輸事件(最高裁判決昭和43年3月15日)において、「一般に、不法行為による損害賠償の示談において、被害者が一定額の支払をうけることで満足し、その余の賠償請求権を放棄したときは、被害者は、示談当時にそれ以上の損害が存在したとしても、あるいは、それ以上の損害が事後に生じたとしても、示談額を上廻る損害については、事後に請求しえない趣旨と解するのが相当である。」とした上で、「全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に小額の賠償金をもって満足する旨の示談がされた場合においては、示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであって、その当時予想できなかった不測の再手術や後遺症がその後発生した場合その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。」と判示しており、この件では後に生じた後遺症についての請求を認めたものとなっています。

後からわかった後遺症について証明が難しい

なお、後からわかった後遺症について請求する場合には、証明が難しいことに注意が必要です。

上記の判例の基準によると、「全損害を正確に把握し難い」・後遺症の発生が「予想できなかった」といえる場合でなければなりません。後から後遺症が発生したとして、相手側の保険会社に主張した場合、必ず争われることになります。その証明は容易ではなく、裁判であらそう場合には証拠が必要となり、発生した後遺症と示談をした段階の症状などから合理的に相手に説明する必要があり、非常に難解であるといえます。

まとめ

本記事では、示談後に後遺症が出た場合の損害賠償が請求可能かについて解説しました。

一度示談した場合には後から蒸し返すような形で請求することはできないのが原則ですが、示談後に後遺症が出た場合でも、最高裁判例の一定の要件をもとに例外的に損害賠償請求をすることができます。もっとも、その証明は難しく相手方とは必ず激しい争いになる上に、後遺障害等級認定や慰謝料の金額の算定などの問題も発生するので、なるべく早く弁護士に相談することをおすすめします。