
交通事故の被害にあった場合、加害者に損害賠償をするのですが、ケースによっては非常に賠償額が大きく被害者が十分補償されない可能性があります。そのため交通事故の被害にあった場合、様々な制度による救済を得られます。労災保険給付はその1つで、仕事中や通勤中に交通事故にあった場合に発生した損害の補償を受けることができます。
本記事では勤務中に交通事故被害に遭った場合の労災保険給付について解説します。
交通事故にあった場合も労災保険給付を受けられる?
労災保険給付とは、勤務でケガや病気となった場合や通勤中にケガをした労働災害に対して補償を行う労働保険の1つの種類です。
多くの人が、たとえば建設現場で転落した、工場で重機で怪我をした、といった場合が思い浮かぶ方も多いと思うのですが、たとえばドライバーが交通事故に遭うこともあり、このような場合も労災保険給付を受けられます。
交通事故で労災保険給付を利用するメリット
交通事故で労災保険給付を利用できるメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
治療費の制限がない
治療費の制限がないというメリットがあります。
大きな交通事故に巻き込まれた際には、多額の治療費がかかることがあります。自賠責保険には120万円という上限があるのですが、労災保険給付の治療費の支払いに相当する療養(補償)給付には上限がありません。
治療費の支払いの終了を決めるのは、労災保険給付についての判断をする労働基準監督署であり、任意保険会社によって治療費の打ち切りを打診されるということもありません。
被害者に過失があっても問題にならない
被害者に過失があっても問題にならないというメリットがあります。
もし被害者にも過失がある場合、自賠責保険・相手への請求(これを補填する任意保険)については、被害者の過失が考慮され、支払われる額が減額します。これは、被害者が加害者に対しておこなう損害賠償請求は、民法第709条以下の不法行為損害賠償請求権に基づくのですが、民法第722条第2項は被害者にも過失がある場合にはこれを考慮することができる旨を定めているためです(過失相殺)。
もっとも労災保険給付については現実の損害をすべて添付してくれ、被害者に過失があっても減額されることはありません。そのため、被害者にも過失がある場合には労災保険給付を利用するメリットがあります。
特別支給金が控除されず受け取れる
特別支給金が控除されず受け取れるというメリットがあります。
労災保険給付のうち、休業特別支給金・障害特別支給金・遺族特別支給金等の特別支給金については、損害の塡補を目的とするものではなく、被害を受けた人への福祉的な観点から支給されます。そのため、加害者に対する請求では控除されずに受けることができると最高裁判例でも判示されています(最高裁平成8年2月23日判決など)。
ほかにもアフターケア・労災就学等援護費・長期家族介護者援護金なども、損害の補填を目的とするものではないため控除されません。
後遺障害等級認定が有利
交通事故で後遺症が残った場合の後遺障害等級認定が有利であるというメリットがあります。
交通事故では後遺障害等級認定が自賠責保険によって行われ、手続きとして書面審査が行われるので、診断書の書き方などによっては本来認定されるべき等級よりも低い等級に認定されたり、認定されないという可能性があります。一方、後遺障害等級認定では、労災保険では労災保険の指定医と面談する必要があり、そこで状態について詳しく話す機会があります。
この違いなどによって後遺障害等級認定が労災保険給付のほうが一般的に有利とされていま
す。
交通事故で労災保険給付を使うべき場合
次の場合には労災保険給付を使いましょう。
被害者の過失が大きい場合
被害者の過失が大きい場合には労災保険を使いましょう。
被害者の過失が大きい場合、自賠責保険では重過失減額がされるほか、相手側も過失相殺を主張して示談金を減額しようとします。一方で労災保険給付については被害者に過失があっても減額されないのは上述した通りです。そのため、被害者の過失が大きい場合には労災保険給付を利用すべきといえるでしょう。
加害者が任意保険に加入してない場合
加害者が任意保険に加入していない場合には、労災保険を使いましょう。
任意保険に加入しない多くの理由は金銭的なもので、そのような人相手に示談をしても支払ってもらえない可能性が非常に高いです。自賠責保険に加入していれば、自賠責保険から給付を受けられますが、自賠責保険の給付は最低限のものであり不十分です。残った分については加害者本人に請求しますが、支払ってもらえる可能性は非常に低いでしょう。
このように相手が任意保険に加入していない場合でも、労災保険は利用できるので、積極的に利用しましょう。
加害者がひき逃げをして保険を加害者が不明
ひき逃げで加害者が不明な場合、加害者の保険は使えません。最低限の政府保障事業からしか支払いを受けられず、補償が不十分になりがちです。
そんなときでも労災保険を適用すると、休業補償や後遺障害への補償などを受けられますし治療費は満額支給されるので、被害者への大きな補償となります。
ひき逃げで加害者が不明である場合
ひき逃げで加害者が不明である場合には、労災保険を利用しましょう。
ひき逃げの被害にあった場合、政府の保障事業により自賠責保険に相当する程度の補償を受けられます。もちろんこれでは補償としては不十分ですので、労災保険給付によって補償を受けるべきといえます。
まとめ
本記事では交通事故被害に遭った場合の労災保険給付について解説しました。
仕事中・通勤中の交通事故については労災として労災保険給付による補償を受けることができます。自賠責を利用する・労災保険給付による補償を受ける・相手の保険会社に支払ってもらう、どれにすべきかは個別具体的に判断すべきなので、弁護士に相談してみてください。