
過失割合について保険会社と交渉しているとよく主張される内容として「動いている車同士の事故に100:0はありえない」というものがあります。交通事故では一般的にこのようにいわれることがあり、確かに多くのケースでは被害者にも過失が認定されることがあります。しかし、動いている車同士の事故でも100:0となることがあります。
そこで、本記事では動いている車同士の事故に100:0はありえないのか、について解説します。
交通事故で問題となる過失割合
「動いている車同士の事故に100:0はありえない」と言われる場合の「100:0」とは過失割合についてのものですが、過失割合とはどのようなものでしょうか。
過失割合とは
過失割合とは、交通事故における当事者の過失から決まる責任の分担の割合のことをいいます。
交通事故の被害者が加害者に対して行う損害賠償請求は、民法第709条の不法行為損害賠償請求に基づいて行われます。不法行為損害賠償請求をする場合、被害者にも過失があれば、その過失が考慮されて損害賠償額が決められます(民法第722条2項)。
そのため、加害者と被害者の過失がどのくらいの割合であるかを確定して責任の分担を決めることになり、その割合が過失割合です。
過失割合はどうやって決めるか
過失割合は当事者で話し合って決めるか、当事者で話し合って決められない場合には、最終的には裁判で決めます。
過失割合については過去の判例などを分析した結果、交通事故の当事者・交通事故の状況などに応じて基本の過失割合が決められ、そこからその事故に特有の修正要素を加味して決められます。たとえば交通事故の典型的な事例である右直事故(青信号を右折する車と、青信号を直進する車の事故)では基本の過失割合が「右折車80:直進車20」となっており、そこから当事者のスピード違反・わき見運転などの修正要素によって具体的な過失割合が決められます。
動いている車同士の事故に100:0はありえないわけではない
本記事の本題である「動いている車同士の事故に100:0はありえない」というのは正しいのでしょうか。
動いている車同士の事故に100:0はありえないのは誤解
確かに、一般的にも動いている車同士の事故に100:0はありえないとするような風潮はあります。
しかし、多くはないですが過失割合が100:0となるケースがあります。
基本の過失割合が100:0となるケース
基本の過失割合が100:0となるケースとして次の4つが挙げられます。
- 信号のある交差点で赤信号無視で青信号の車と衝突した場合
- センターラインをオーバーしたことによって対向車同士が衝突した場合
- やむを得ず急ブレーキを踏んだ自動車に追突した場合
- 道路が混雑しているので低速走行をしていた車に追突した場合
以上の4つのケースでは、いずれも被害者に過失を認めることができないため、基本の過失割合が100:0となります。
もっとも基本の過失割合が100:0でも、被害者もわき見運転をしていた・スピード違反をしていたなどの修正要素がある場合には、それが加味されて100:0にならないことがあるので注意が必要です。
修正要素によって100:0になるケース
ほかにも、基本の過失割合は100:0ではなくても、修正要素によって100:0になってしまうことがあります。
たとえば、上述したように右直事故は過失割合が80:20なのですが、右折した加害者がウインカーを出さず、徐行もせず、大回りで右折して、飲酒運転だったというような場合、複数の加害者の過失割合が加算される修正要素が重なった結果、過失割合は100:0となることがあります。
保険会社が被害者の過失を主張している場合の対応方法
保険会社と交渉する際に「動いている車同士の事故に100:0はありえない」として、被害者の過失を主張することがあります。しかし保険会社は支払う金額が少なくなるように交渉するのが仕事であり、裁判をした場合には取り上げられないような被害者の過失を主張してくることがあります。
「動いている車同士の事故に100:0はありえない」というのもその典型的な主張の1つで、上述した基本の過失割合・修正要素から過失割合が100:0となることを反論して、過失割合は100:0であると主張する必要があります。
まとめ
本記事では、「動いている車同士の事故に100:0はありえない」ということについて解説しました。
よくこのような主張がされるのですが、実際には誤りであり過失割合が100:0となることがあります。基本の過失割合と修正要素をきちんと把握して反論しましょう。
交通事故においては保険会社は過失割合以外にも、慰謝料の額を定額で提示してきたり、治療費の打ち切りを打診してくるなどします。またその交渉も非常に負担となります。弁護士に相談・依頼して、保険会社との交渉を任せてしまうことをおすすめします。