過労死とは?労災認定基準について解説

時折報道などで取り上げられる過労死ですが、過労死で亡くなった場合、遺族はどのような補償を受けられるのでしょうか。真っ先に思い浮かぶのが労災ですが、ほかにも会社への損害賠償請求という選択肢もあることはご存知でしょうか。

本記事では、過労死とは何か労災の認定基準や補償内容について解説します。

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過労死とは

過労死とは、働き過ぎが原因で亡くなることを指します。

過重労働が脳血管疾患や心臓疾患、精神疾患の原因となることは、厚生労働省のパンフレット「脳・心臓疾患の労災認定~『過労死』と労災保険」および「精神障害の労災認定」で明らかにされています。

「仕事が特に過重であったために血管病変等が著しく憎悪し、その結果、脳・心臓疾患が発症することがあります。」

引用:脳・心臓疾患の労災認定~「過労死」と労災保険|厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11.pdf

また、過労死等防止対策推進法2条では過労死について次のように定義しています。

この法律において「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう

引用:過労死等防止対策推進法|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC1000000100

過労死は、長時間労働が常態化している日本で初めて確認されたもので、国際的にも「karōshi」として知られるものです。

過労死した人の遺族が請求できるもの

過労死した人の遺族が請求できるものとしては次のものが挙げられます。

労災保険給付

過労死をした場合、労災保険給付を受けられます。

労災保険給付として受け取れるのは、以下の項目です。

労災保険給付として受け取れる項目
  • 遺族特別支給金
  • 遺族補償年金
  • 遺族特別年金
  • 葬祭料
  • 労災就学援護費

会社への損害賠償請求

労災保険の給付には慰謝料が含まれていません。また、支給される年金だけでは過労死による損害を十分に補えない場合があります。

会社は労働者に対して「その生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」ことを義務としており(労働契約法第5条)、これに違反した場合には損害賠償請求が認められています。そのため、労災保険給付でカバーしきれていない損害については、会社に対して請求が可能です。

過労死の労災認定基準(脳・心臓疾患)

過労死が労災と認定されるための基準のうち、まず、脳・心臓疾患に関する基準を解説します。

労災認定される対象となる脳・心臓疾患

脳・心臓疾患について、過労死として労災認定されるためには、次の疾患が対象とされています。

脳血管疾患
  • 脳内出血(脳出血)
  • くも膜下出血
  • 脳梗塞
  • 高血圧性脳症
虚血性心疾患等
  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 心停止(心臓性突然死を含む)
  • 解離性大動脈瘤

引用:脳・心臓疾患の労災認定~「過労死」と労災保険|厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11.pdf

労災認定される基準

以上の疾患について労災認定されるためには、以下の3つの基準から総合的に判断して、「業務による明らかな過重負荷」といえるかの認定をします。

労災認定される3つの基準
  1. 異常な出来事
  2. 短時間の過重業務
  3. 長時間の過重業務

それぞれの基準は次の通りです。

異常な出来事

脳・心臓疾患の発症直前から前日までの間において、業務中に異常な出来事に遭遇した場合、脳・心臓疾患との関連が強いと判断されます

異常な出来事として、次の3つが挙げられます。

異常な出来事
  • 精神的負荷
  • 身体的負荷
  • 作業環境の変化

異常な出来事があったと認定しうる精神的負荷とは、極度の緊張興奮恐怖驚愕などの強度の精神的負荷を引き起こす突発的・予測困難な異常な事態が発生したことをいいます。例えば、業務に関連した重大な人身事故に関与して、精神的に負荷がかかってしまった場合が挙げられます。

異常な出来事があったと認定しうる身体的負荷とは、緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態が発生したことをいいます。例えば、事故の発生により救助活動や事故処理に携わり、身体的に負荷がかかってしまった場合が挙げられます。

異常な出来事があったと認定しうる作業環境の変化とは、急激で著しい作業環境の変化があった場合をいいます。例えば、屋外作業で著しく暑く・水分補給ができないようなところに出入りした場合が挙げられます。

対象となる脳・心臓疾患の発症の前日にこのような事情があった場合、業務による明らかな過重負荷といえ、労災認定がされます。

短時間の過重業務

脳・心臓疾患の発症から1週間前までの短時間の間に過重業務をした場合、脳・心臓疾患との関連が強いと判断されます。

過重業務かどうかについては、業務量業務内容作業環境など具体的な負荷要因を考慮して、同じように働いている人にとっても過重労働といえるかを客観的かつ総合的に判断します。

長時間の過重業務

脳・心臓疾患の発症から6ヶ月前までの長時間の間に過重業務をした場合、脳・心臓疾患との関連が強いと判断されます。

過重業務かどうかについては、労働時間のほか、不規則な勤務拘束時間が長い出張が多い交代勤務や深夜勤務作業環境精神的緊張を伴うかなどを総合考慮して決められます。

労働時間について、俗にいう過労死ラインと呼ばれる次の時間外労働の上限と密接に関連します。

時間外労働の上限
  • 45時間を超えると業務と脳・心臓疾患発症との関連が徐々に強くなる
  • 1ヶ月100時間を超える時間外労働をした場合には脳・心臓疾患発症との関連が強いと評価される
  • 2ヶ月~6ヶ月の間に毎月80時間を超える時間外労働をした場合には脳・心臓疾患発症との関連が強いと評価される

過労死の労災認定基準(精神疾患)

次に、過労死が労災と認定されるための基準のうち、精神疾患に関する基準を解説します。

精神疾患が労災認定されるための基準として次の3つを満たす必要があります。

精神疾患が労災認定されるための3つの基準
  1. 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  2. 業務による強い⼼理的負荷が認められること
  3. 業務以外の⼼理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

参考:精神障害の労災認定~過労死等の労災補償 Ⅱ(https://www.mhlw.go.jp/content/001309223.pdf

労災認定される対象となる精神疾患

精神疾患について、過労死として労災認定されるのは、次の疾患が対象とされています。

過労死として労災認定される精神疾患
  • 症状性を含む器質性精神障害
  • 精神作⽤物質使⽤による精神及び⾏動の障害
  • 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害
  • 気分(感情)障害
  • 神経症性障害、ストレス関連障害及び⾝体表現性障害
  • ⽣理的障害及び⾝体的要因に関連した⾏動症候群
  • 成⼈の⼈格及び⾏動の障害
  • 知的障害(精神遅滞)
  • ⼼理的発達の障害
  • ⼩児(児童)期及び⻘年期に通常発症する⾏動及び情緒の障害、詳細不明の精神障害

参考:精神障害の労災認定~過労死等の労災補償 Ⅱ(https://www.mhlw.go.jp/content/001309223.pdf

なお、認知症や頭部外傷などによる障害・アルコールや薬物による障害は除きます。

業務による強い⼼理的負荷が認められること

精神疾患について、過労死として労災認定されるためには、業務による強い心理的負荷が認められることが必要です。

精神疾患の発病前おおむね6か⽉の間に起きた業務による出来事について、「精神障害の労災認定~過労死等の労災補償 Ⅱ」の5ページ目にある別表1「業務による⼼理的負荷評価表」により「強」と評価される場合に、業務による強い心理的負荷が認められます。

参考:精神障害の労災認定~過労死等の労災補償 Ⅱ(https://www.mhlw.go.jp/content/001309223.pdf

業務以外の⼼理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

精神疾患について、過労死として労災認定されるためには、業務以外の⼼理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないことも必要です。

業務以外の⼼理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないといえるかどうかは、「精神障害の労災認定~過労死等の労災補償 Ⅱ」の11ページ目にある別表2「業務以外の⼼理的負荷評価表」を⽤い、⼼理的負荷の強度を評価します。

参考:精神障害の労災認定~過労死等の労災補償 Ⅱ(https://www.mhlw.go.jp/content/001309223.pdf

まとめ

本記事では過労死とはどのようなものかについてと、労災の認定基準について解説しました。過労死において労災の認定基準の基礎的な部分でも、本記事でご紹介したように非常に複雑です。

また、過労死があった場合、会社への損害賠償が別途発生することになります。専門の弁護士に依頼し、対応を任せることをおすすめします。