過労により精神障害を負った場合の損害賠償請求について

長時間勤務が常態化するなどで過労によってうつ病などの精神障害に罹患することがあります。

この場合、労災保険による給付を受けることが考えられますが、実は労災保険給付ではカバーできない損害があります。この損害については、会社に対して請求できることはご存知でしょうか?

本記事では過労により精神障害を負った場合の損害賠償請求について解説します。

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過労で精神障害を負った場合の損害賠償請求について

過労で精神障害を負った場合の損害賠償請求についての法律上の規定を確認しましょう。

会社に対して安全配慮義務違反を問うことができる

会社に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求ができます。

会社は労働者に対して労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務を負っています(安全配慮義務:労働契約法5条)。

会社が安全配慮義務に違反して労働者に損害を与えた場合には、会社は労働者に対して損害賠償をしなければなりません。

長時間労働を強いるなどした結果、過労によって精神障害に罹患してしまった場合には、損害賠償請求が可能です。

会社に対して使用者責任を問うことができる

例えば、上司からのセクハラやパワハラが原因で精神障害を発症した場合には、直接不法行為責任を負うのは上司です。

会社は、事業を執り行うにあたって損害を加えた場合、その損害を賠償しなければならない旨が民法715条に規定されています。そのため会社は民法715条の使用者責任に基づき、損害賠償義務を負います。

過労で精神障害になった場合の損害賠償と労災保険給付との関係

過労で精神障害になった場合の労災保険給付との関係はどうなっているのでしょうか。

仕事の過労が原因で精神障害となった場合には、会社に対する損害賠償請求のほかに労災保険給付を受けることができます。

過労で精神障害になった被害者であっても、二重取りは認められていません。そのため、労災保険給付で受け取った額以上の損害については会社に請求できることになります。

例えば、慰謝料は労災保険給付の対象となっておらず、また休業補償給付については一部しか補填されません。そのため、慰謝料や補填されていない休業補償給付について請求することができます。

会社に損害賠償請求をする方法

会社に損害賠償請求をする方法には次のものがあります。

交渉によって請求する

会社に交渉して請求します。

法的な請求でよく利用される内容証明は、交渉方法の一つにすぎません。

裁判を起こす

会社が交渉に応じない場合には裁判を起こします。

裁判を起こす場合には訴状・証拠説明書・準備書面などの書類を作成するほかに、証拠書類の収集などが必要となります。

労働審判を起こす

裁判に代わる紛争解決方法に労働審判があります。

労働審判は、裁判官1名と労働問題に詳しい民間人2名の計3名で構成される労働審判委員会が実施する、労働問題の調停・審判手続です。

労働審判は原則として期日が最大3回までとされるなど、迅速な紛争解決ができるようになっています。

精神疾患を原因とする労災の認定基準

精神疾患が労災認定されるための基準として次の3つを満たす必要があります。

精神疾患が労災認定される3つの基準
  • 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  • 業務による強い⼼理的負荷が認められること
  • 業務以外の⼼理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

参考:精神障害の労災認定~過労死等の労災補償 Ⅱ(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001309223.pdf

労災認定される対象となる精神疾患

精神疾患で労災認定の対象となるのは、以下の疾患です。

労災認定の対象となる精神疾患
  • 症状性を含む器質性精神障害
  • 精神作⽤物質使⽤による精神及び⾏動の障害
  • 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害
  • 気分(感情)障害
  • 神経症性障害、ストレス関連障害及び⾝体表現性障害
  • ⽣理的障害及び⾝体的要因に関連した⾏動症候群
  • 成⼈の⼈格及び⾏動の障害
  • 知的障害(精神遅滞)
  • ⼼理的発達の障害
  • ⼩児(児童)期及び⻘年期に通常発症する⾏動及び情緒の障害、詳細不明の精神障害

参考:精神障害の労災認定~過労死等の労災補償 Ⅱ(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001309223.pdf

なお、ここでは、認知症や頭部外傷などによる障害・アルコールや薬物による障害は除かれます。

業務による強い⼼理的負荷が認められること

精神疾患の労災認定には、業務による強い心理的負荷が認められることが必要です。

精神疾患の発病前おおむね6か⽉の間に起きた業務による出来事について、「精神障害の労災認定~過労死等の労災補償 Ⅱ」の5ページ目にある別表1「業務による⼼理的負荷評価表」により「強」と評価される場合に、業務による強い心理的負荷が認められることになります。

参考:精神障害の労災認定~過労死等の労災補償 Ⅱ(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001309223.pdf

業務以外の⼼理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

精神疾患の労災認定には、業務以外の⼼理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないことも必要です。

業務以外の⼼理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないと判断されるためには、「精神障害の労災認定~過労死等の労災補償 Ⅱ」の11ページ目にある別表2「業務以外の⼼理的負荷評価表」を⽤います。

参考:精神障害の労災認定~過労死等の労災補償 Ⅱ(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001309223.pdf

まとめ

本記事では過労により精神障害を負った場合の損害賠償請求について解説しました。

過労により精神障害を負うことになった場合、会社に対して損害賠償ができるほか、労災の請求も可能です。

損害賠償の交渉は難航する可能性があるほか、長時間労働が常態化している場合には未払い残業代を請求できる可能性もあります。弁護士に相談してどのような請求ができるのかをきちんと精査することをおすすめします。