時折ニュースでも問題になる過労自殺。
遺族としては、会社に対して責任を追及することになりますが、損害賠償を請求する場合、どのような法律関係になるのでしょうか。
本記事では、労働者が過労自殺をした場合の会社に対する損害賠償請求について解説します。
過労自殺をした場合の会社への責任追及方法
過労自殺の場合、会社に責任を追及する方法として次の手段があります。
損害賠償請求
民事での責任追及方法として、会社に対して損害賠償請求をすることが責任追及方法の一つ目です。
会社は、労働契約に伴い、労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務があります(安全配慮義務:労働契約法5条)。
会社が安全配慮義務に違反したために労働者が被害を被ったときには、労働者は会社に対して安全配慮義務違反を主張して、損害賠償を請求することができます。
ニュースで過労自殺が取り上げられる場合、多くは時間外労働の制限を超える残業を強いていたり、セクハラ・パワハラなどのハラスメントが行われており、このような場合安全配慮義務違反を問うことができます。
この請求権は被害者である過労自殺をした労働者に帰属しており、その請求権は相続人に相続されます。
また、過労自殺をさせたような場合、その行為は民法709条の不法行為にも該当します。
生命を侵害された近親者には精神的苦痛を被ったことに対する独自の損害賠償請求も認められています(民法711条)。
行政責任
違法な長時間残業を強いていたような場合には、その会社は行政指導・行政処分を受ける立場にあります。そのため、労働基準監督署に通告し、行政指導・行政処分を受けさせることも責任追及の一つの方法です。
しかし、あくまでこれらは会社に法律を守らせるための措置にすぎず、すでに過労自殺で亡くなった人の遺族に対する補償などの内容ではありません。
刑事責任
会社を労働基準法違反で告発することで、刑事責任を問わせることも責任追及の一つの方法です。
違法な長時間労働をさせていた場合には、刑事罰が課せられる規定があります(労働基準法第119条1号)。会社がこの規定に違反するような長時間残業を強いていた結果、過労自殺に至った場合には、告発をすることも検討しましょう。
この場合、労働基準法違反の刑事事件についても労働基準監督署が対応することになるので、労働基準監督署に行政処分と一緒に相談することになります。
過労自殺の損害賠償と労災保険の関係
過労自殺した場合、会社に対して損害賠償請求すること以外に、労災保険から給付を受けることもできます。
この場合、労災保険給付を受けられるので、会社に対する損害賠償は必要ないように思えます。しかし、労災保険給付では慰謝料など完全な補償を得られるわけではありません。労災保険給付で補償されていない部分については、会社に損害賠償請求を行うことができます。
なお、労災認定されるには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
対象となる精神障害の種類や、業務による強い心理的負荷が認められること・業務以外の⼼理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないことの判断方法は、厚生労働省の「精神障害の労災認定~過労死等の労災補償 Ⅱ(https://www.mhlw.go.jp/content/001309223.pdf)」を参考に判断します。
過労自殺の損害賠償の請求方法
過労自殺の損害賠償の請求方法は次の通りです。
交渉
会社と交渉して支払いを求めます。
民事上の請求をする際、「内容証明を送る」という方法を耳にすることが多いかもしれません。
しかし、内容証明は、法的に送付内容を証明するための書面にすぎず、交渉手段の一つにすぎません。
裁判
交渉をしても会社が安全配慮義務違反を認めない場合や、安全配慮義務違反を認めながら支払いをしない・金額で折り合いがつかないような場合には裁判を起こします。
裁判をする場合には、訴状・準備書面などの書類の作成のほか、証拠を収集することなどが必要です。
労働審判
裁判の他の法的手段に労働審判があります。
労働審判とは、裁判官1名と労働問題に詳しい民間人2名で構成される労働審判委員会が、会社と労働者の間で起きた労働問題の調停や審判を行う手続きです。
裁判では長期化が予想される場合でも、労働審判は原則として最大3回までの期日で迅速な解決が可能です。
まとめ
本記事では過労自殺による損害賠償請求について解説しました。
労働者が過労自殺をした場合、労災保険給付を受けることもできますが、労災保険給付ではカバーしきれない損害については、会社に損害賠償請求をすることが可能です。
会社との交渉や法的手続きについては非常に難解で手間がかかるので、弁護士に依頼することをおすすめします。