
盗撮をしようとしてカメラを向けたものの、うまく撮影ボタンを押せなかった・制止されてしまい撮影できていない、ということがあります。このような盗撮の未遂については逮捕・処罰されるのでしょうか。
本記事では盗撮未遂で逮捕されるのか、撮影データの証拠がなくても罪になるのかについて解説します。
盗撮が未遂であっても罪に問われるか
盗撮が未遂であっても罪に問われるのでしょうか。
未遂で罪に問われるためには規定が必要
ある犯罪について、未遂である場合に罪に問われるためには、未遂の場合でも罰する旨の規定が必要です。
刑法第44条は、「未遂を罰する場合は、各本条で定める。」として、未遂の場合でも処罰するためには、条文で定めることが必要とされています。例えば殺人罪は刑法第199条に定められていますが、第203条で未遂を処罰する旨が規定されているので殺人未遂罪として処罰されます。一方、名誉毀損罪(刑法第230条)には未遂を罰する規定がなく、名誉毀損未遂罪は処罰されません。
性的姿態等撮影罪には未遂規定がある
盗撮行為を処罰する「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」第2条第1項は、性的姿態等撮影罪として盗撮行為を処罰していますが、同2項において未遂を処罰する旨の規定があります。そのため、盗撮が未遂で終わったとしても処罰されます。
迷惑防止条例には未遂犯は無いが処罰される
なお、撮影罪は2023年7月13日に施行されたものですが、それ以前の盗撮については都道府県の迷惑防止条例と呼ばれるもので処罰されていました。
宮城県では、宮城県迷惑防止条例が制定されており、以下のような条文に基づいて処罰されています。
人の下着等を撮影し、又は撮影する目的で写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を向け、若しくは設置すること。
第3条の2第1項第3号
何人も、正当な理由がないのに、住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所で当該状態にある人を撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。
第3条の2第3項
何人も、正当な理由がないのに、集会場、事務所、教室その他の特定かつ多数の者が利用するような場所にいる人又はタクシー、貸切バスその他の特定かつ多数の者が利用するような乗物に乗つている人の下着等を撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。
第3条の2第4項
つまりカメラを向けたり設置した段階で撮影していなくても処罰する旨の規定があるので、盗撮行為自体が行われる・行われないに関わらず犯罪が成立しています。
盗撮のために侵入行為をしていると住居侵入罪・建造物侵入罪に問われる
盗撮自体は未遂に終わったとしても、盗撮をするために住居に侵入していたり、建造物に侵入している場合には、住居侵入罪・建造物侵入罪は既遂として成立します。
盗撮未遂は証拠が無くても罪になるのか
盗撮未遂は証拠が無くても罪になるのでしょうか。
有罪にするには証拠が必要
盗撮未遂に限らず、刑事事件で有罪とする判決を下すためには、証拠が必要です。そのため、盗撮未遂でも証拠は必要です。
撮影データが無い盗撮未遂は罪に問えるのか
盗撮未遂の場合撮影データが無いのですが、盗撮未遂として罪に問えるのでしょうか。
撮影罪の既遂で起訴する場合、スマートフォンや自宅のパソコンなどを押収して、盗撮をしている画像・動画などのデータをもとに、盗撮していたことを認定します。撮影データが無い盗撮未遂では証拠がないため、罪に問えないのではないかと考える方も居ます。
しかし、盗撮行為についての証拠は本人が写した画像・動画のデータだけではありません。他にも目撃者の証言や監視カメラ・防犯カメラの動画などで、盗撮しようとしていることを立証できることがあります。このような場合には盗撮をした撮影データがなくても罪に問われることになります。
盗撮未遂で刑事事件となった場合の対応方法
盗撮未遂で刑事事件となった場合には、被害者との示談を早急に進めることが重要です。
逮捕は加害者に逃亡や証拠隠滅のおそれがあることでおこなわれますが、被害者と示談が済んでいると、逃亡や証拠隠滅のおそれはないとして逮捕を免れる可能性が高まります。
また、起訴について刑事訴訟法第248条は、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる」としています。そのため、被害者と示談をして真摯な反省を示せば、起訴されないで済む可能性が高まります。
盗撮事件の被害者との示談は相手の感情や警察が連絡先をおしえてくれないなどで単独では難しいので、弁護士に依頼するのが一般的です。
まとめ
本記事では盗撮未遂で逮捕されるのか、証拠が無くても有罪となるのかについて解説しました。
盗撮が未遂でも処罰する規定はあり、本人の撮影データが無い場合でも、他の証拠によって盗撮行為を認定することができます。もし捜査の対象になっているのであれば、早めに弁護士に依頼して、被害者と示談を進めることを検討しましょう。