
「暴行罪では警察は動かない」と言われることがあります。しかし、暴行罪も犯罪である以上は、警察が全く動かないということはあり得ません。暴行罪でも、程度によっては逮捕に至るケースもあります。
今回は、暴行罪とは何か、暴行罪で警察が動かないケース、警察が動かない場合の対処法などを解説します。暴行罪での警察の対応に疑問をお持ちの方は、ぜひ最後までご覧ください。
暴行罪とは?
暴行罪は、人の身体に不法な有形力を行使した結果、相手が傷害を負わなかったときに成立する犯罪です(刑法208条)。
(暴行)第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。 引用:e-Gov法令検索|刑法 |
「暴行」とは人の身体に向けた不法な有形力の行使のことです。不法な有形力の行使には、殴る、蹴るといった相手の身体に対する直接的なものだけでなく、相手の目の前に石を叩きつける、包丁を振り回すなど間接的なものも含まれます。
さらに、不法な有形力の程度は、ケガをする可能性があるほど強いものでなくても、相手の身体に唾や塩をかける、相手の衣類を引っ張るなどの行為も「暴行」に当たる可能性があります。
暴行罪で警察が動かないケース
暴行罪で警察が動かない、事件として取り扱わないケースとしては、次のようなケースが挙げられます。
- 被害届を提出せず警察が事件を認知していない
- 暴行による被害の程度が軽微である
- 暴行の証拠がない
それぞれのケースについて詳しく解説します。
被害届を提出せず警察が事件を認知していない
被害届の提出や110番通報をしたケースで、警察が全く動かないということはありません。警察が事件を認知したときには、正式に事件として取り扱うか否かを判断するために現場を確認したり、関係者の話を聞いたりします。
被害届や通報があっても、警察が正式な事件として取り扱わないケースはあります。しかし、全く動かないままで事件として取り扱わないことを決めることはありません。
「暴行罪で警察は動いてくれない」と言う人の中には、最初から諦めて警察に通報すらしていない人もいるでしょう。被害届や110番通報なしでは警察が事件を認知できないため、警察は動きません。
暴行による被害の程度が軽微である
暴行による被害の程度が軽微であるときには、警察が正式に事件として取り扱わないことがあります。警察としては、さまざまな事情から事件として取り扱うべきかを判断していますが、被害者からすると「警察は動いていない」という印象を受けることもあるでしょう。
暴行罪の「暴行」には、あらゆる有形力の行使が含まれるため、簡単に犯罪が成立してしまう可能性があります。たとえば、夫婦喧嘩で相手が話を聞いてくれないから服を引っ張って自分に意識を向ける行為も「暴行」となる余地があります。
暴行罪が成立し得る行為をすべて事件化すると、逆に問題が深刻化する可能性もあります。警察は、暴行の程度や暴行に至る経緯などをしっかり確認したうえで、暴行罪が成立し得る場合でも事件化する必要はないと考えて、正式な事件として取り扱わないケースもあります。
暴行の証拠がない
警察が暴行を事件として取り扱い、捜査を開始するには証拠が必要です。暴行罪は、証拠が残らないケースも多く、そのようなケースでは警察が動かない場合もあります。
暴行罪は、相手に塩を振りかけたり、跡が残らない程度の蹴りを加えたりした場合であっても成立し得る犯罪です。そのため、被害者の身体には証拠が残らないケースも少なくありません。
警察が被害者の証言だけで暴行の有無を判断するのは難しいです。暴行の現場を撮影したビデオや第三者の目撃証言などの証拠がないケースでは、警察が動いてくれない(動けない)こともあります。
暴行罪で警察が動いてくれないときの対処法
暴行罪の捜査を促しても警察が動いてくれないときの対処法としては、次の2つが挙げられます。
- 告訴状を提出する
- 弁護士に相談する
それぞれの対処法について詳しく解説します。
告訴状を提出する
捜査機関に被害の事実を申告し、加害者の処罰を求める意思表示のことを告訴といいます。告訴状は、告訴の意思表示を記載した書面のことです。
警察は、被害届を受理した場合でも捜査を行う義務はありません。一方、警察が告訴状を受理した場合には、事件を検察官に引き継ぐ義務を負います(刑事訴訟法242条)。
被害届を提出するだけでは警察が動いてくれないときは、告訴状を提出して加害者の処罰を求める意思が強いことをしっかりと伝えましょう。
弁護士に相談する
どうしても警察が動いてくれないときは弁護士に相談するのも1つの方法です。
弁護士に相談すると、専門家としての立場から警察に捜査を促すことができます。さらに、告訴状の作成や告訴状を受理してくれない場合の警察や検察への対応もすべて弁護士に任せられます。
暴行罪では、相手に刑事処罰を与えるのが難しいケースも少なくありません。その場合でも、弁護士に依頼すれば、民事上の損害賠償など他の手段も検討できます。