
刑事事件であっても、被疑者が必ず逮捕されるわけではありません。
事件の内容や被疑者の状況、捜査の進捗によっては、逮捕・勾留されることなく捜査や裁判が進められるケースもあります。これを「在宅事件」といいます。
在宅事件では、被疑者が身体を拘束されないため、家族関係や仕事などへの影響を最小限に抑えられます。
今回は、在宅事件・身柄事件とは何かを説明したうえで、それぞれを分ける基準や両者の違い、在宅事件の流れなどを解説します。
在宅事件・身柄事件とは
在宅事件とは、被疑者や被告人の身体を拘束することなく、捜査や裁判などの刑事手続が進められる事件を指します。
一方、身柄事件とは、被疑者や被告人を逮捕・勾留して身体を拘束した状態で捜査や裁判などの手続きが進められる事件を指します。
刑事事件では、必ず被疑者を逮捕したうえで手続きが進められると考えている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、被疑者が逃亡したり証拠を隠滅したりするおそれがない事件では、在宅事件として逮捕されることなく一連の刑事手続が終結します。
次の見出しでは、在宅事件と身柄事件がどのような基準で振り分けられるかについて、より詳しく解説します。
在宅事件と身柄事件を分ける基準は?
在宅事件と身柄事件は、被疑者を逮捕・勾留する必要があるかどうかによって分けられます。
被疑者を逮捕する要件は、次の2つです。
- 嫌疑の相当性(刑事訴訟法199条1項本文)
- 逮捕の必要性(同条2項ただし書、刑事訴訟規則143条の3)
嫌疑の相当性とは、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があることです。
逮捕の必要性は、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれの有無によって判断されます。
逃亡や罪証隠滅のおそれを判断する要素としては、次のようなものが挙げられます。
- 事件の重大性
- 定まった住居があるか、家族と同居しているか
- 罪を認めているか
- 証拠が揃っているか
- 被害者と示談しているか
- 共犯者がいるか など
たとえば、殺人や不同意性交などの重大事件で実刑判決が予測される場合には、逃亡・証拠隠滅のおそれがあると判断されて身柄事件となるケースがほとんどです。
逆に、万引きやけんかでの傷害など比較的軽微な事件で被害者も罪を認めているケースでは、在宅事件として捜査が進められることが多いでしょう。
また、同じ窃盗罪であっても、被害額が大きいと重い処罰が予測されるため、逃亡・証拠隠滅のおそれが認められやすくなります。
事件の重大性については、罪名だけでなく実際の被害の大きさにも着目して在宅事件とするか身柄事件とするかが判断されます。
在宅事件と身柄事件との違い
在宅事件と身柄事件の違いは、捜査から裁判までの一連の刑事手続において被疑者・被告人の身体が拘束されるか否かという点にあります。
在宅事件では、身体を拘束されずに手続きが進められるので、仕事や学校に通うことも可能です。家族や友人、上司などとも、通常どおりのコミュニケーションがとれます。
一方、身柄事件になると、逮捕・勾留で最長23日間の身体拘束を受けます。
当然のことながら、その間は仕事や学校に通うこともできません。弁護士以外については、警察官立ち会いでの短時間の面会が許されているだけです。
さらに、起訴されると保釈が許可されない限り裁判が終わるまで身体拘束が続くことになってしまいます。
在宅事件と身柄事件とでは、被疑者の社会生活に与える影響に大きな差があります。
身柄事件であっても、途中から在宅事件に切り替えられるケースは少なくありません。
社会生活への影響を最小限に抑えるには、早期の身体解放を目指すことが重要です。
在宅事件の流れ
在宅事件であっても身柄事件であっても、まずは捜査機関が被疑者に対する何らかの嫌疑を把握した段階で捜査が開始されます。
当初は、被疑者と接触することなく、被疑者の身辺調査や被害者からの聴取などが進められるケースが多いでしょう。
その後、初動捜査によって集められた証拠などから、在宅事件で進めるのか、被疑者を逮捕するのかが判断されます。
在宅事件では、逮捕されることなく、警察からの呼び出しで取り調べを受けたり、自宅の捜索差押が行われたりします。
この間、捜査を終えるまでの期間に制限はありません。
身柄事件では逮捕・勾留の期間が最長23日間と定められていますが、在宅事件には期間制限がないため捜査が長期化することもあります。
在宅事件のまま、必要な捜査が終わると、検察官によって起訴・不起訴の判断がされます。
起訴されると刑事裁判を受けることになりますが、在宅事件では裁判が終わるまでの期間も身体拘束を受けないケースがほとんどです。
不起訴になると、この段階で刑事手続が終結します。
なお、在宅事件として開始された事件でも途中から身柄事件に切り替わる可能性がある点には注意が必要です。
在宅事件で取り調べが続けられていた場合でも、嫌疑が高まった時点で逮捕・勾留されるケースは少なくありません。
その場合は、逮捕・勾留の段階から最長23日間の期間が始まります。
逆に、身柄事件であっても、途中で釈放されて在宅事件として捜査が続けられるケースもあります。
在宅事件でも弁護士に相談すべき?
在宅事件であっても、できる限り早く弁護士に相談すべきです。
その理由としては、次のようなものが挙げられます。
- 弁護士の助言により事件の見通しが立てられる
- 処分を軽くするためのサポートが受けられる
- 身柄事件に切り替わる可能性がある
在宅事件では、期間制限もなく、いつまで捜査が続くのか、どのような処分になるのかの見通しが立てにくいです。
刑事事件の経験が豊富な弁護士に相談すると、早い段階から事件の見通しが立てられます。そのうえで、処分をできる限り軽くするためのサポートを受けられます。
在宅事件が身柄事件に切り替わるケースは珍しくありません。在宅事件の段階で弁護士に相談しておけば、逮捕直後から状況を詳しく把握している弁護士による迅速なサポートを受けられます。
まとめ
在宅事件は身体拘束を伴わないとはいえ、捜査や処分の内容によっては今後の生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。
身柄事件に切り替わるおそれがある場合や、取調べへの対応に不安がある場合は、早めに弁護士へ相談することが重要です。
刑事事件に関するお悩みや不安を抱えている方は、ぜひ当事務所にご相談ください。






