不同意わいせつ罪は、被害者の同意なくわいせつな行為を行う犯罪です。令和5年7月13日の刑法改正で、これまでの「強制わいせつ罪」が改められ「不同意わいせつ罪」が新設されました。
性犯罪は厳罰化の方向で改正が進められており、不同意わいせつ罪は、強制わいせつ罪と比較して処罰範囲が広く、時効も延長されています。
今回は、不同意わいせつ罪とは何かを理解するために、不同意わいせつ罪の構成要件、不同意わいせつ罪と強制わいせつ罪との違い、強制わいせつ罪を犯したらどうなるのかを解説します。
不同意わいせつ罪とは何か
不同意わいせつ罪は、令和5年7月13日の刑法改正で新設された犯罪です。ここでは、不同意わいせつ罪の構成要件と罰則・時効について詳しく解説します。
不同意わいせつ罪の構成要件
不同意わいせつ罪が成立するのは、次の4つの場合です(刑法176条)。
刑法176条1項の不同意わいせつ罪は、被害者が同意しない意思を形成し、表明しもしくは全うすることが困難な状態にさせて、わいせつな行為をしたときに成立する犯罪です。
被害者が同意しない意思を形成し、表明しもしくは全うすることが困難な状態にさせる行為の内容としては、次のものが挙げられています(刑法176条1項各号)。
「わいせつな行為」の具体例としては、被害者の身体を触る、キスをするなどが挙げられます。
不同意わいせつ罪の罰則・時効
不同意わいせつ罪の法定刑は、6月以上10年以下の有期拘禁刑です。
刑事事件の時効については、刑事訴訟法250条に規定されています。不同意わいせつ罪は、「長期15年未満の懲役または禁錮に当たる罪」なので、通常であれば時効は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。
ですが、旧強制わいせつ罪の時効が短すぎるという批判や性犯罪の厳罰化という意向から、不同意わいせつ罪の時効については特別の規定が設けられ、不同意わいせつ罪の時効は12年となっています(刑事訴訟法250条3項3号)。
不同意わいせつ罪と強制わいせつ罪との違い
不同意わいせつ罪は、令和5年7月13日の刑法改正で強制わいせつ罪から改められた規定です。
強制わいせつ罪は、処罰の対象が「暴行又は脅迫」を用いたわいせつ行為に限定されていましたが、不同意わいせつ罪は、「暴行又は脅迫」を用いていなくても、被害者が「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態」のときにわいせつな行為をした場合に成立します。
不同意わいせつ罪は、被害者が薬物やアルコールの影響により正常な判断ができない状態にあった場合や、仕事上の関係から同意しない意思を示せない状態であった場合にも成立するもので、強制わいせつ罪よりも処罰範囲が広がっています。
令和5年7月13日の刑法改正では、準強制わいせつ罪が廃止されており、不同意わいせつ罪は、強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪を組み合わせ、構成要件をより明確にした規定といえるでしょう。
また、不同意わいせつ罪は、被害者の年齢が13歳以上16歳未満の人で加害者との年齢差が5歳以上あるときには、被害者の同意があっても犯罪が成立します。強制わいせつ罪の場合、13歳以上の人が同意しているときには犯罪が成立しませんでした。
さらに、時効の点でも、強制わいせつ罪の7年から不同意わいせつ罪は12年と延長されているのは先に述べたとおりです。
強制わいせつ罪を犯したらどうなるのか
不同意わいせつ罪の法定刑は、6月以上10年以下の有期拘禁刑となっており、性犯罪の中でも比較的重い犯罪です。強制わいせつ罪の内容は様々ですが、13歳未満の者に対する不同意わいせつ、性交等に準じるほどの不同意わいせつ、立場を利用した長期間にわたる不同意わいせつなど、犯行態様が悪質なものは初犯でも実刑となる可能性があります。
実刑とはならないケースでも、性犯罪での逮捕はメディアで報道されることもあり、そうなると社会復帰が難しくなってしまう可能性もあるでしょう。
不同意わいせつ罪での重い処罰を避けるには、被害者との示談交渉を成立させることが重要です。不同意わいせつ罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪とはなっていないものの、警察・検察の捜査は、被害者の意向を考慮して行われるケースが多くなっています。
不同意わいせつ罪での示談が成立し、示談書の内容として「加害者を宥恕する(許す)」「加害者の刑事処罰を求めない」といったものがあれば、逮捕、起訴に至らない可能性が高いといえるでしょう。
不同意わいせつ罪で逮捕されてしまった、逮捕される可能性があるという場合には、すぐに弁護士に相談してください。早めに示談交渉をスタートできれば、示談成立の可能性も高まり、起訴や逮捕という事態を避けやすくなります。