窃盗罪は、最も認知件数の多い犯罪の一つです。しかし、構成要件(犯罪が成立する要件)や罰則、時効などを詳しく理解している方は少ないでしょう。
今回は、窃盗罪について正しく理解するために、窃盗罪の構成要件や罰則、時効、窃盗罪の具体的な手口について解説します。
窃盗罪とは?
窃盗罪(刑法235条)は、詐欺罪や横領罪などと同じく他人の財産を侵害する財産犯の一種で、他人の物を盗んだ場合に成立する犯罪です。
(窃盗)第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 引用:刑法|e-Gov法令検索 |
窃盗罪は、最も認知件数の多い犯罪の一つです。令和元年のデータでは、刑法犯全体の認知件数が約75万件であったのに対し、窃盗罪は約53万件で全体の約7割を占めています。窃盗罪の手口には、万引きや置き引きなど、普段は犯罪と縁のない人が「ついやってしまう」ようなものもあり、日常に潜む身近な犯罪ということが言えるでしょう。
参照:犯罪の動向|法務省
ここでは、窃盗罪の構成要件、罰則、時効について解説します。
窃盗罪の構成要件
窃盗罪は、「他人の占有」する「財物」を「不法領得の意思」をもって「窃取」した場合に成立します。
他人の占有
「他人の占有」とは、他人が財物を事実上支配している状態のことです。たとえば、家の前に停めている自転車は、持ち主が事実上支配しているといえるため、「他人が占有」しているといえます。一方、道端に放置されている自転車には持ち主の事実上の支配は及んでいないため、「他人が占有」しているものとはいえません。
他人の占有が及んでいない財物を自分の物にしたときには、窃盗罪ではなく占有離脱物横領罪の成否が問題となります。
財物
「財物」とは、基本的には固体、液体、気体といった有体物に限られます。ただし、管理可能性があるものは「財物」にあたるとする説も有力です。
「財物」の財産的価値は問われません。客観的に財産的価値がないと考えられるものであっても「財物」にあたります。過去の判例では、無効となった約束手形や使用済みの収入印紙を「財物」と認定したものがあります。
不法領得の意思
窃盗罪が成立するには、不法領得の意思が必要とされています。窃盗罪における不法領得の意思とは、権利者を排除し他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い利用または処分する意思をいいます。
たとえば、他人の財物を自分の所有物とするのではなく嫌がらせのために壊す目的で持ち出した場合には、不法領得の意思は認められず、器物損壊罪の成否が問題となります。
窃取
「窃取」とは、占有者の意思に反して自己の占有に移す行為のことです。
他人の物を自分の占有に移す行為でも、それが相手方の意思によるものならば窃盗罪は成立しません。たとえば、相手の持ち物を価値がないものと思いこませて、ただで貰ったような場合には、相手の意思に反して物を貰ったわけではないので窃盗罪は成立しません。このケースでは、相手方を騙して物を貰った点について、詐欺罪の成否が問題となります。
窃盗罪の罰則
窃盗罪の罰則は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
以前の刑法では、窃盗罪に罰金刑は規定されていませんでしたが、平成18年の刑法改正によって罰金刑が追加されました。
窃盗罪で逮捕された場合には、初犯では起訴猶予になるか、起訴されても略式裁判での罰金刑となる可能性が高いでしょう。罰金刑となる場合の相場は20万円から30万円ほどです。
同種前科のある人や犯行の手口が悪質な場合、被害金額が大きい場合などは、窃盗罪でも懲役刑の実刑となる可能性もあります。
窃盗罪で重い処罰を避けるためには、被害弁償をおこない、被害者との示談を成立させることが重要です。
窃盗罪の時効
窃盗罪の時効は、7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。
刑法犯の時効は、法定刑を基準に区分されています。窃盗の法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金なので、「長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪」として時効は7年となります。
なお、窃盗罪は、民事上は不法行為に該当します。不法行為の時効は、被害と犯人を知ってから3年もしくは、窃盗行為のときから20年です。そのため、被害者が犯人を知ったのが、窃盗行為から5年後の場合には窃盗行為から8年後が時効となり、刑事事件の時効が成立したあとも、民事上の損害賠償を請求される可能性はあります。
窃盗罪の具体的な手口
窃盗罪の具体的な手口としては、次のものが挙げられます。
窃盗罪の手口は幅広く、手口の悪質性が量刑に影響を与えることも多くあります。空き巣やひったくりなどでは、「窃盗」の意思で犯罪を開始したものの、結果として重大な犯罪を起こしてしまうケースも少なくありません。
たとえば、ひったくりが追いかけてきた被害者を殴り倒したときには、事後強盗罪が成立します。事後強盗の法定刑は、強盗罪と同じ5年以上の有期懲役となっており、重い処罰を受ける可能性が高いでしょう。さらに、被害者がケガをした場合には、法定刑が無期または6年以上の懲役というさらに重い強盗致傷罪が成立します。
また、機密情報が記載された書類をコピーする目的で持ち出したり、パチスロでゴト行為によって出玉を増やすなど、思わぬ行為でも窃盗罪による処罰の対象となります。