ガサ入れ(捜索差押)とは?その流れと疑問に答えます

ガサ入れ(捜索差押)とは?その流れと疑問に答えます

刑事ドラマでよく聞く「ガサ入れ」とは、正式には「捜索差押」を示すものです。ガサ入れという言葉は聞いたことがあっても、「ガサ入れされると家の中がめちゃくちゃにされるの?」「ガサ入れを拒否することはできるの?」など疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

今回は、ガサ入れとは何かガサ入れの流れを解説したうえで、ガサ入れについてよくある質問にも回答します。

刑事事件お問い合わせ

ガサ入れとは

ガサ入れ」とは、警察官や検察官などの捜査官が使用する隠語で、正式名称は「捜索差押」といいます。捜索差押は、証拠を見つけるための捜索見つけた証拠を強制的に取得する差押を併せた手続きです。

捜索差押は、逮捕や勾留などと同じく、被疑者の同意がなくても強制的に行われる強制処分です。捜索差押許可状を示された被疑者は、捜索差押を拒否することはできません。

ここでは、捜索差押を行うための要件や捜索差押の範囲について詳しく解説します。

捜索差押の要件

捜索差押を行うには、逮捕に伴う場合を除き、裁判官が発布した捜索差押許可状が必要です(憲法35条1項、刑事訴訟法218条1項)。

捜索差押のような強制処分を行うには、裁判官が発布する令状が必要とされる原則を令状主義といいます。捜索差押は、被疑者の基本的人権であるプライバシー権を侵害する捜査方法です。捜査機関が自らの判断で捜索差押ができるなら、恣意的な捜査によって被疑者のプライバシーが不当に侵害される可能性があります。

憲法や刑事訴訟法が令状主義により捜索差押に令状を必要としているのは、公正な立場にある裁判官のチェックを経ることで、捜査機関による恣意的な捜査によるプライバシー侵害を防ぐためです。

捜索差押許可状の発布には「正当な理由」(憲法35条1項)が必要とされており、具体的には次の3つの要件を満たす場合にのみ、捜索差押が許されます。

捜索差押許可状が発布される3つの要件
  1. 捜査の対象となる被疑事実が存在する蓋然性が高いこと(確実性が高い)
  2. 捜索の対象となる場所に差押の目的となる物が存在する蓋然性が高いこと
  3. 捜査のために強制処分という手段を用いる必要性があること

捜索差押の範囲

捜索差押許可状には、「差し押さえるべき物」と「捜索すべき場所」が記載されています。そのため、捜索差押の範囲は無制限ではなく、捜索差押許可状に記載された範囲に限られます

刑事ドラマでは、ガサ入れに来た警察官が家中をしらみつぶしに探し回り、タンスや引き出しの中身をひっくり返すというシーンを見たことがある方もいらっしゃるでしょう。しかし、実際の捜索差押では、差押えの目的物がありそうな場所に絞って捜索が行われるため、家がめちゃくちゃになるまで捜索されるというケースはほとんどありません。

ただし、被疑者が差押えの対象物を隠したと疑われるようなことがあれば、家中を徹底的に調べられる可能性はあります。

捜索差押の流れ

捜索差押は、次のような流れで行われます。

捜索差押の流れ
  1. 捜査の開始
  2. 捜索差押許可状の発布
  3. 捜索差押の実施

それぞれの段階の手続きについて具体的に解説します。

捜査の開始

被害届や事件の痕跡をきっかけとして捜査機関による捜査が開始されます。被疑者不詳の事件では、関係者からの聴取や事件の遺留品、防犯カメラの映像などから、被疑者を特定するための捜査が進められます。

捜索差押の対象となる被疑者が特定されたときには、内偵捜査が行われるケースが多いでしょう。内偵捜査は、被疑者の生活パターンや関係者などを把握する目的で行われる捜査です。捜索差押に向けての内偵捜査では、捜索差押が空振りしないよう、被疑者が自宅にいる時間を特定します。

捜索差押許可状の発布

捜査によって嫌疑が固まると、裁判所に捜索差押許可状の発布を申請します。

裁判官は、捜査機関から提出された資料をもとに、捜索差押許可状を発布する「正当な理由」が認められるかを判断し、令状を発布します。

捜索差押の実施

捜索差押許可状に基づいて捜索差押が実施されます。捜索差押が実施されるタイミングは、被疑者が自宅にいる平日の朝方が多いです。

捜査官は、被疑者に捜索差押許可状を示したうえで捜索差押を開始します。そして、捜索差押許可状に記載された被疑事実に関連する証拠品を差し押さえて、警察署に持ち帰ります。

被疑者側には、捜索差押のタイミングは事前に知らされませんが、捜索差押許可状を示されたあとは拒否することもできません。

捜索差押についてのよくある質問

ここでは、捜索差押についてよくある質問に回答します。

捜索差押許可状なしに捜索差押が行われることはありますか?

令状なしの捜索差押は認められないのが原則です。ただし、現行犯逮捕に伴う捜索差押については例外的に令状なしで行うことが認められています。

たとえば、被疑者が覚せい剤所持の現行犯で逮捕された場合、捜査官は被疑者の身の回りについて令状なしに捜索差押ができます。

ただし、逮捕に伴う捜索差押が認められるのは、被疑者の身体とその周辺だけです。被疑者を路上で現行犯逮捕したあとで、被疑者の自宅まで行って捜索差押をすることはできません。

捜索差押で差し押さえられた物はどうなりますか?

捜索差押で差し押さえられた証拠物は、捜査が終わったあとで返却されます。ただし、違法薬物などは返却されることなく没収されます。

返却のタイミングは、起訴された場合には刑事裁判の終了後、不起訴の場合には不起訴が決まったタイミングとなる場合が多いでしょう。