
令和5年の刑法改正で不同意性交等罪が新たに施行されました。不同意性交等罪は、陰茎を膣や肛門に挿入しなくても成立する場合がある犯罪です。そのため、予想していなかった行為が不同意性交等罪に該当し、処罰される可能性があります。
先日、ビデオ通話で少女にわいせつな映像を送るよう要求した男が不同意性交等罪で逮捕されました。ビデオ通話のように被害者と加害者が離れたところにいても、不同意性交等罪が成立することはあるのでしょうか。
この記事では、ビデオ通話で不同意性交等罪が成立するか、不同意性交等罪以外にビデオ通話で成立する可能性がある犯罪について解説します。
ビデオ通話で不同意性交等罪は成立する?
令和6年12月5日、16歳未満の少女にビデオ通話でわいせつな映像を送るよう要求した男が不同意性交等罪で逮捕されたという報道がありました。ビデオ通話のように、加害者と被害者に物理的な接触がないケースでも、不同意性交等罪は成立する可能性があるのでしょうか。
ここでは、不同意性交等罪の成立要件を解説したうえで、物理的接触のないビデオ通話で不同意性交等罪の成立要件を満たすことがあるのかについて解説します。
不同意性交等罪の成立要件
不同意性交等罪は、被害者が13歳以上16歳未満で、加害者との年齢差が5歳以上ある場合に「性交等」が行われれば、同意の有無を問わず成立します。
今回の事件では、被害者が16歳未満で加害者が22歳のため、年齢差は5歳以上です。そのため、加害者が被害者との「性交等」を行った場合、不同意性交等罪が成立します。
「性交等」には以下の行為が含まれます。
- 性交(陰茎を膣に挿入する一般的な性行為)
- 肛門性交、口腔性交
- 膣や肛門に陰茎以外の身体の一部または物を挿入する行為
かつて、強姦罪では、一番上の性交のみが処罰対象とされていました。その後、2017年の刑法改正で強制性交等罪が施行され、肛門性交や口腔性交も処罰対象となりました。そして、2023年の不同意性交等罪の施行により、膣や肛門に陰茎以外の身体の一部または物を挿入する行為も処罰対象となったのです。
不同意性交等罪について詳しくは次の記事で解説していますので、併せてご確認ください。
ビデオ通話で不同意性交等罪の成立要件を満たすことはあるか
ビデオ通話で不同意性交等罪が成立するか否かを判断するには、物理的接触のない「性交等」が可能か否かを検討する必要があります。
通常の性行為、肛門性交、口腔性交は、物理的接触なしには行えません。ですが、「膣や肛門に物を挿入する行為」については、物理的接触なしでも可能です。たとえば、被害者自身の膣にバイブレーターを挿入させる行為は、加害者が被害者に触れなくても行えるでしょう。
ビデオ通話について考えると、加害者が被害者に命令して被害者の膣や肛門に物を挿入させた場合には、加害者が実際に対面して陰茎や物を挿入するのと同じく「性交等」と認定される可能性があります。
この記事を作成している時点(2024年12月)で不同意性交等罪は、施行から1年半ほどの新しい犯罪です。現状、ビデオ通話やチャット通話などリモートの行為について、不同意性交等罪で起訴された事案があるか否かは明らかとなっていません。冒頭で取り上げた事件についても、実際に不同意性交等罪で起訴されたか否かは不明です。
しかし、「性交等」の定義からは、物理的接触なしでも不同意性交等罪が成立する可能性はあります。今後、ビデオ通話の内容によっては、不同意性交等罪で重い処罰を受ける可能性がある点には注意が必要です。
ビデオ通話で他に成立する可能性がある犯罪
不同意性交等罪以外にビデオ通話で成立する可能性がある犯罪としては、次の2つが挙げられます。
- 不同意わいせつ罪
- 強要罪
ケースによっては、青少年健全育成条例違反になる場合もあるでしょう。実際、ビデオ通話で陰部を見せるよう要求したり、SNSのダイレクトメッセージやLINEを通じて陰部の動画や写真を送受信したことで、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)や強要罪で検挙された事例は数多くあります。
不同意わいせつ罪
不同意わいせつ罪は、被害者が同意しない意思を形成、表明、全うするのを困難な状態にさせて、わいせつな行為をした場合に成立する犯罪です。不同意性交等罪と同じく、被害者が13歳以上16歳未満で加害者との年齢差が5歳以上あるときは、「わいせつな行為」があれば犯罪が成立します。
ビデオ通話で陰部を見せたり、見せることを要求したりする行為が「わいせつな行為」に当たることは明らかです。被害者が16歳以上のときには、ビデオ通話中に、被害者が同意しない意思を形成、表明、または全うすることを困難にする行為があったかどうかが問題となりますが、被害者が16歳未満のときは、わいせつな行為をさせた時点で不同意わいせつ罪が成立します。
不同意わいせつ罪について詳しくは次の記事で解説していますので、併せてご確認ください。
強要罪
強要罪は、脅迫や暴行により、被害者に義務のないことを行わせる犯罪です。
ビデオ通話やDMのやり取りの場合、被害者が容易に加害者とのやり取りを止められる状況にある場合も多く、「被害者が同意しない意思を形成、表明、全うするのを困難な状態」にあったと認定するのが難しいこともあります。
強要罪は、不同意わいせつ罪が成立しない場合でも成立する可能性がある犯罪です。被害者の状況によって不同意わいせつ罪の成立が困難な場合には、代わりに強要罪で検挙や起訴される可能性があります。