
「キスされた!」として、不同意わいせつ罪として罪に問われることはあるのでしょうか。キスをしたと一言でいっても、わいせつ目的で唇にするものから、単なる挨拶やゲームとして手の甲にするものまで、その態様はさまざまです。
そこで本記事では、キスをしただけで不同意わいせつになるのか、罪に問われる可能性がある場合の対処法などと併せて解説します。
どのような行為が不同意わいせつに問われるのか
どのような行為が不同意わいせつ(旧強制わいせつ)に問われるのでしょうか。
不同意わいせつに問われる行為
不同意わいせつに問われるのは、以下の行為を行う場合、またはそれによる状況を利用してわいせつな行為をする場合です。
- 暴行もしくは脅迫を行う
- 心身の障害を生じさせる
- アルコールもしくは薬物を摂取させる
- 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせる
- 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがない
- 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚がくさせる
- 虐待に起因する心理的反応を生じさせる
- 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させる
- 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせる
- 行為をする者について人違いをさせる
- 16歳未満の者に対し、わいせつな行為をする
従来の強制わいせつ罪では暴行もしくは脅迫を行うことのみが規定されていました。しかし、不本意なわいせつ行為を余儀なくされるケースはほかにもあることから、2023年7月13日に改正がされ、現在の規定となりました。
たとえば、眠っている人にキスをすることは「睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせる」に該当します。また、職場での地位を利用してキスをすることは「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させる」に該当します。
わいせつな行為をする
以上のような累計で行った行為がわいせつな行為であると認められる必要があります。
わいせつな行為とは「いたずらに人の性欲を刺激し、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反すること」と最高裁判所の判例で定義されました。キスについては性愛表現の一種ですが、親密であることを示したり、挨拶として交わされることもあり、常にわいせつに該当するとはいえません。そのため、わいせつな行為にあたる場合もあれば当たらない場合もあります。
刑事事件では、キスをした時間や場所、どこにキスをしたか、キスをした相手との関係、キスの仕方、キスをした相手の反応、キスをするまでの流れや周囲の状況、キスが社会一般でどのように受け止められているかなど、様々な事情を総合的に考慮して判断されます。わいせつ行為を肯定または否定する判断に影響を与える事情については、以下をご参照ください。
わいせつを肯定する事情 | わいせつを否定する事情 | |
キスをした時間 | 深夜・未明 | 昼間 |
キスをした場所 | 周囲に人がいない場所 | 周囲に人がいる場所 |
どこにキスをしたか | 唇・性器など | 手の甲・おでこ |
キスをした相手との関係 | 他人・知っている程度の人 | 夫婦や恋人 |
キスの仕方 | 相手を掴むなどの有形力を行使した | 力を入れておらず自然である |
キスをした相手の反応 | 嫌がった、歯を食いしばって舌を入れてくるのを拒否 | 嫌がるそぶりを見せない、舌を絡ませる、相手に腕を回す |
キスをするまでの流れ | 突然キスをするなど | デート中、挨拶をした後など |
キスをしたときの周囲の状況 | 2人きりになっていた | 周囲にたくさん人がいた |
未遂でも処罰される
不同意わいせつ罪については、未遂でも処罰される旨の規定があります(刑法第181条第1項前段)。
婚姻関係があっても成立する
不同意わいせつ罪は、婚姻関係があっても成立します。そのため、配偶者でもキスをすることで不同意わいせつ罪が成立することもあるので注意が必要です。
不同意わいせつ罪の法定刑
不同意わいせつ罪の法定刑は、6か月以上10年以下の拘禁刑です。
キスをした場合に不同意わいせつ罪で逮捕・起訴されないためには
キスをしたことで不同意わいせつ罪に問われる可能性がある場合、逮捕や起訴を避けるにはどのような対応が必要でしょうか。
被害者と示談する
被害者と示談をします。被害者と示談をすることで、罪証隠滅のおそれがないとして逮捕されない・処罰感情が弱まり起訴の必要がない、と判断され、逮捕・起訴を免れる可能性が高まります。被害者との直接示談をしようとすると相手に拒否されることがあるので、弁護士に依頼して示談をすすめるのが良いでしょう。
なお、慰謝料としては事案により30~100万円程度が相場となります。
警察に自首をする
被害者と面識がなかったり、連絡方法が分からない場合は、示談を進めるのが難しいことがあります。その場合、警察に自首することが選択肢の一つです。ただし、警察が被害者の連絡先を教えてくれるとは限りません。そのため、弁護士に依頼して警察から被害者の連絡先を取得し、示談交渉を進める形になります。
まとめ
本記事ではキスをしただけで不同意わいせつになるのかについて解説しました。
キスといっても様々な態様があり、ケースによっては不同意わいせつに該当する場合があります。キスによって不同意わいせつ罪に問われる可能性がある場合は、早めに被害者と示談を行うことが重要です。不同意わいせつ罪の示談交渉は、被害者と加害者が直接行うのは非常に困難です。そのため、弁護士に依頼して示談交渉を進めてもらい、逮捕や起訴を防ぐ対応を取ることをおすすめします。